地震、台風、洪水、火災――自然災害はいつ起きるかわからない。保育園には小さな子どもを預かる施設として、万全の防災対策が求められている。「避難訓練はやっているけど、本当にこれで大丈夫?」「マニュアルはあるけど、形だけになっていないか不安」。そんな声は現場から少なくない。
この記事では、保育園における防災対策の基本から、実効性のある防災マニュアルの作り方、避難訓練の進め方まで、現場で役立つ情報を体系的にまとめている。いざというときに子どもの命を守れる備えを、一緒に確認していこう。

保育園の防災対策が重要な理由
保育園は、自分で判断して行動することが難しい乳幼児を多数預かる施設だ。災害時に子どもの安全を確保する責任は、すべて保育士にかかっている。
児童福祉施設の設備及び運営に関する基準(第6条第2項)では、保育園を含む児童福祉施設に対して少なくとも毎月1回の避難訓練・消火訓練の実施が義務づけられている。消防法でも年2回以上の消防訓練が求められており、保育園はより厳しい月1回の基準に従う必要がある。
形式的な訓練ではなく、実際の災害を想定した実践的な訓練を行い、全職員が「自分は何をすべきか」を理解していることが重要だ。
防災マニュアルに盛り込むべき内容
実効性のある防災マニュアルには、以下の項目を含める必要がある。
災害時の役割分担
災害が発生したとき、誰が何をするのかを明確に決めておくことが不可欠だ。
| 役割 | 担当 | 内容 |
|---|---|---|
| 指揮・統括 | 園長(不在時は副園長) | 避難の判断・指示、関係機関への連絡 |
| 情報収集 | 事務担当 | 災害情報の収集、気象情報の確認 |
| 園児の避難誘導 | 各クラス担任 | 園児を避難場所へ誘導、人数確認 |
| 要支援児の対応 | 加配保育士 | 配慮が必要な園児の個別対応 |
| 保護者連絡 | 指定担当者 | 一斉メール・電話連絡 |
| 応急手当 | 看護師(保健担当) | ケガの応急処置、AEDの準備 |
避難場所と避難経路
災害の種類に応じた避難場所を複数設定しておく。地震の場合は園庭など広い場所、水害の場合は高台や2階以上のフロアなど、災害の種類に合わせた避難先を明記する。
避難経路も複数用意し、メインルートが使えない場合の代替ルートを設定しておく。経路上に危険箇所(ブロック塀、自動販売機、ガラスの多い場所など)がないか事前にチェックすることも大切だ。
緊急連絡体制
保護者への連絡方法、消防・警察・行政への通報先、嘱託医の連絡先などをまとめた連絡先一覧を作成する。災害時は電話がつながりにくくなるため、一斉メール配信システムやSNSなど、複数の連絡手段を用意しておくことが重要だ。
- 災害用伝言ダイヤル(171)の使い方を全職員と保護者に周知する
- 保護者への引き渡しルールを事前に決めておく
- 保護者に引き渡せない場合の対応方針も定めておく

災害別の対応ポイント
地震への対応
地震発生時は、まず子どもの安全確保が最優先だ。テーブルの下に入る、頭を守る姿勢をとるよう指示し、揺れがおさまってから避難を開始する。
保育室では、棚の転倒防止金具の設置、窓ガラスの飛散防止フィルムの貼付、重い物を高い場所に置かないなど、日頃からの備えが被害を左右する。
棚やロッカーの固定には、突っ張り棒タイプや粘着マットタイプなど、設置場所に合った家具転倒防止グッズを選ぶとよい。
火災への対応
火災を発見したら、まず「火事だ!」と大声で知らせ、初期消火が可能か判断する。消火が難しい場合は直ちに避難を開始し、119番通報を行う。避難時は煙を吸い込まないよう、姿勢を低くして移動する。
避難経路の近くに消火器を設置し、全職員が使い方を把握しておく。消火器の使用期限も定期的に確認する。
水害(台風・豪雨・洪水)への対応
気象警報が発令された場合の対応基準を事前に定めておく。大雨警報・洪水警報が出た場合の保育の継続・中止の判断基準、早めの迎え要請のタイミングなどを明確にしておこう。
園の立地がハザードマップ上の浸水想定区域にあたるかどうかも確認しておく。浸水リスクがある場合は、垂直避難(2階以上への移動)の手順も整備しておく必要がある。
不審者への対応
不審者の侵入に備えた対応も防災マニュアルに含める。施錠管理の徹底、インターホンでの確認、さすまたの設置場所と使い方、警察への通報手順などを整備しておく。合言葉や暗号を決めておき、職員間で迅速に情報を共有できるようにする。
さすまたは職員が取り出しやすい場所に置き、訓練で実際に持って動いてみることが大切だ。未設置の場合は、軽量で扱いやすいタイプから検討するとよい。
効果的な避難訓練の進め方
月1回の避難訓練を形骸化させないためには、毎回テーマを変えて実施することが効果的だ。
訓練のバリエーション
| 月 | 訓練テーマ(例) |
|---|---|
| 4月 | 基本的な避難経路の確認(新入園児・新職員対応) |
| 5月 | 地震想定の避難訓練 |
| 6月 | 水害を想定した垂直避難 |
| 7月 | プール中の緊急避難 |
| 8月 | 消火訓練(消火器の使い方) |
| 9月 | 引き渡し訓練(保護者参加) |
| 10月 | 散歩中の地震を想定した訓練 |
| 11月 | 給食中の火災を想定した訓練 |
| 12月 | 不審者対応訓練 |
| 1月 | 午睡中の地震を想定した訓練 |
| 2月 | 抜き打ち訓練 |
| 3月 | 年間の振り返りと次年度計画 |
子どもへの安全教育
子どもの年齢に応じた安全教育も大切だ。地震の際に身を守る姿勢(ダンゴムシのポーズ)、「おかしもち」(おさない、かけない、しゃべらない、もどらない、ちかづかない)のルールなど、遊びを通じて楽しく学べる工夫をしよう。
訓練の前に防災をテーマにした絵本を読み聞かせると、子どもたちが「なぜ逃げるのか」をイメージしやすくなる。年齢に合った内容のものを選ぼう。

備蓄品と防災用品のリスト
災害が発生した場合、保護者の迎えが来るまで園で子どもを保護する必要がある。最低でも3日分の備蓄を目安に準備しておきたい。
食料・飲料水
飲料水は1人1日3リットルが目安。乳児がいる場合は粉ミルクや液体ミルク、哺乳瓶も必要だ。離乳食期の子ども用にはベビーフードも備えておく。食料はアレルギー対応のものも含めて、多様なニーズに対応できるようにする。
飲料水は保存期間の長いタイプを選んでおくと、入れ替えの手間を減らせる。
衛生用品
おむつ、おしりふき、ウェットティッシュ、消毒用アルコール、ビニール袋、使い捨て手袋、マスクなどを備蓄しておく。停電時にトイレが使えなくなることを想定し、簡易トイレも用意しておくとよい。
その他の備品
- 懐中電灯・ランタン(予備電池も)
- 携帯ラジオ
- 救急セット(包帯、ガーゼ、消毒液、絆創膏など)
- 毛布・ブランケット
- 笛・ホイッスル(救助要請用)
- 園児の名簿・緊急連絡先のコピー
- モバイルバッテリー
ラジオ・ライト・スマホ充電の機能が1台にまとまった手回し式の防災ラジオなら、停電時に電池切れを心配せずに使える。
備蓄品は定期的に消費期限をチェックし、期限が近いものは入れ替える「ローリングストック」方式で管理するのがおすすめだ。
保護者との連携
引き渡しルールの明確化
災害時の子どもの引き渡しルールを入園時に保護者に伝えておく。引き渡し可能な人(保護者以外を含む)をあらかじめ登録しておき、身分証での確認手順を定めておく。
定期的な情報共有
年度初めに防災に関するお便りを配布し、園の避難場所や連絡方法を周知する。引き渡し訓練を年1回は保護者参加で実施し、実際の流れを体験してもらうことも重要だ。
園児用の非常持ち出し袋を用意する園では、子どもが背負いやすい小さめの防災リュックを使うと、避難時に両手を空けやすい。
地域との連携で防災力を高める
保育園の防災は、園だけで完結するものではない。地域との連携が、いざというときの大きな力になる。
自治会・町内会との連携
園の周辺住民や自治会と日頃から関係を築いておくことで、災害時に助け合える体制ができる。地域の防災訓練に参加したり、園の避難訓練を公開したりすることで、顔の見える関係をつくっておこう。
近隣施設との協力体制
近くの学校や公共施設と、災害時の受け入れについて事前に協定を結んでおくと安心だ。園の建物が使えなくなった場合の避難先として、地域の施設を活用できるよう調整しておくことが重要だ。
ハザードマップの確認
園の立地がハザードマップ上でどのような位置づけにあるかを把握しておくことは基本中の基本だ。浸水想定区域、土砂災害警戒区域、津波浸水想定区域など、園が直面し得るリスクを正しく理解した上で対策を立てよう。
Q&A|防災対策でよくある疑問
Q. 保育中に大地震が来て、建物が危険な状態になったらどうする?
園内が危険な場合は、あらかじめ設定した二次避難場所(近隣の公園、学校、公共施設など)に移動する。移動の判断は園長(不在時は代行者)が行い、移動先の情報を保護者に発信する。
Q. 散歩中に地震が起きた場合は?
まずは子どもの頭を守り、安全な場所で揺れがおさまるのを待つ。ブロック塀や電柱、ガラスの近くから離れ、可能であれば近くの広い場所に移動する。園への連絡が取れ次第、状況を報告し、指示を仰ぐ。
散歩のときは、絆創膏やガーゼなどをまとめたコンパクトな救急セットを持ち歩いておくと、外出先での小さなケガにもすぐ対応できる。
Q. 防災マニュアルはどのくらいの頻度で見直すべき?
少なくとも年に1回は見直すことが望ましい。新しい職員の加入、園の設備変更、周辺環境の変化(新しい建物の建設、道路工事など)があった場合はその都度更新する。自治体のハザードマップも定期的に最新版を確認しておこう。
Q. 保護者が迎えに来られない場合、園で何時間まで預かる?
明確な時間の上限は法令では定められていないが、園の備蓄(最低3日分)と職員の体制が許す限り保護するのが基本だ。事前に「保護者が迎えに来られない場合の対応方針」を園と保護者の間で確認しておくことが大切だ。代理の引き取り人の登録も忘れずに行っておこう。
まとめ
保育園の防災対策は、マニュアルの整備、定期的な避難訓練、備蓄品の管理、保護者との連携の4つの柱で成り立っている。月1回の避難訓練を形骸化させず、毎回異なるシナリオで実施することで、実践的な対応力を身につけることができる。
大切なのは、マニュアルを「作って終わり」にしないことだ。全職員が内容を理解し、自分の役割を把握し、訓練を通じて体に覚え込ませておくことが、いざというときに子どもの命を守る力になる。
防災マニュアルの作成にあたっては、高知県が公開している保育所・幼稚園等防災マニュアル作成の手引きが実践的な内容で参考になる。また、こども家庭庁の教育・保育施設等における重大事故防止の取組ページも安全計画の策定に活用してほしい。



